『ヒューマンライツ・ウオッチ/アフリカ(Human Rights Watch/Africa)』と『アフリカン・ライツ(African Rights)』を中心に
『ヒューマンライツ・ウオッチ/アフリカ』は、アメリカに本部をおき1978年に設立された『ヒューマンライツ・ウオッチ』のアフリカ担当支部であり、事務所はロンドンにおかれている。
『ヒューマンライツ・ウオッチ』は、人権侵害をやめさせるための外交政策をアメリカ政府にとらせるためのロビー活動を行っている。その会長はランダム・ハウス社の社長・会長などを歴任したロバート・バーンスタインである。
その起源は、1978年に設立された最古の支部『ヘルシンキ・ウオッチ』にある。つまり1975年に東西35ヵ国により欧州安全保障などを協議する首脳会議がひらかれ、人権保障などを誓約した“ヘルシンキ宣言”が採択されたのを契機に、各国内で同宣言が守られてるかを市民が監視するための“ヘルシンキ監視グループ”をつくる市民運動がもりあがった。ところが、当時のソ連とチェコスロバキアではこの運動をおこなう市民に迫害が加えられたので、その迫害に対抗するため『ヘルシンキ・ウオッチ』が設立されたのであった。
その後活動対象が次第に“ヘルシンキ宣言”の35の当事国すべてにひろげられていった。
また、ラテンアメリカにおける重大な人権侵害にたいしてレーガン政権が、“敵対的な全体主義”政権の人権侵害にくらべ“友好的な権威主義”政権の人権侵害はよりすすんで許容されうるという、許容されえない人権政策をとったのに対抗して、『ヘルシンキ・ウオッチ』を設立したひとびとが1981年に『アメリカズ・ウオッチ』を設立したのであった。
各担当支部が追加されていって、現在では5つの地域担当支部−アフリカ、米州、アジア、ヘルシンキ、中東−と4つのテーマ担当支部−武器プロジェクト、自由な表現プロジェクト、刑務所プロジェクト、女性の権利プロジェクト−で構成されている。
『ヒューマンライツ・ウオッチ』は、人権を監視するひとや自国内で人権をまもろうとするひとへの攻撃をとくにきびしく監視し、その保護に最高のプライオリティーをあたえている。その判断基準は国際法であるとされる。しかし、活動の対象範囲は市民的・政治的な人権の侵害に限定されている。
なぜ経済的・社会的な人権の侵害をあつかわないのかという疑問にたいしては、「…おおくの政治的権利の否定や政治的な動機による人権侵害は市民が経済的・社会的問題についてとる態度に関係している。たとえば、おおくの諸国で労働組合は侵害の標的にされている。ある諸国では、土地紛争にかかわった農民はひんぱんに略式処刑や他の暴力的な侵害の標的にされる。『ヒューマンライツ・ウオッチ』はそのような侵害の犠牲者をまもり、経済的・社会的問題について組織をつくり意見を発表する権利を保障するのです」と答えている。
これは“なぜ…”という疑問にたいする回答というよりは特定の事案における政治的人権の侵害の原因の1つを説明したにすぎない。
ブレトンウッズ体制や新国際経済秩序についての立場を明確にしめさなければ、その活動はアメリカによる世界の“ドル支配”をまもるための市民的努力ではないのかというあらぬ疑いをぬぐいきれないであろう。なぜなら、ブレトンウッズ体制こそが政治的・市民的権利の侵害の根本原因であると主張されうるからである。
さらに、とくにアフリカについては、「アフリカ人権憲章(1981)」に規定されている人民自決権や発展の権利などの人民の権利との関係で市民的・政治的権利を明確に位置づけておかなければ混乱をさけられなくなるであろう。
ソマリアにたいする米軍中心の多国籍軍の侵攻についての評価をめぐり、1993年に『ヒューマンライツ・ウオッチ/アフリカ』の理事長でソマリア出身のラキヤ・オマールや副理事長アレックス・ド・ワールなどが『ヒューマンライツ・ウオッチ』を脱退して、『アフリカン・ライツ』という新たなアフリカ専門の人権NGOを設立したのも、人民の権利の位置づけかたの甘さと無関係ではなかろう。
『アフリカン・ライツ』の最初のレポートがソマリアでの米軍の国際違法行為を調査・研究した「ソマリア− 希望回復作戦:予備的評価」で、つぎが「ソマリア:国連軍による人権侵害」であったのも、『ヒューマンライツ・ウオッチ』についての上記の2つの理論問題の重大さを象徴しているかのようである。
その活動は、人権侵害政権への経済・軍事援助を停止・削減することにより人権侵害政策をやめさせることをめざして1973年からアメリカ議会が提唱し1977年に成立したカーター政権のもとで推進されたアメリカ対外援助法の“人権条項”を人権侵害政権にたいして適用するようアメリカ政府に圧力をかけたり、日本などの援助大国にも人権侵害をおこなっている政府に援助をあたえないよう働きかけ、国連や他の国際機構に圧力をかけたりする。ときには人権侵害をおこなっている政府にかけあって政策の変更をうながし、ときには裁判闘争もおこなう。
その財源は、民間の財団や個人からの財政援助にたよっており、いかなる政府ならびに政府の資金供与を受けてる機関からのいかなる財政援助も求めないしうけとらないとしている。
各担当支部にはプログラムと政策を検討するための委員会があり、委員は総勢150人以上にのぼり週に1度以上いずれかの委員会がひらかれている。本部の執行委員会は各担当支部の役員や選出された委員、スタッフ代表で構成され、月に1度ひらかれ、組織問題などを審議する。
『ヒューマンライツ・ウオッチ/アフリカ』の特筆される活動としては、たとえばアンゴラ内戦の両当事者による戦争法違反をはじめて報告し、UNITAだけにたいする援助の継続をアメリカ議会で問題にさせた。ケニアについては、一党独裁政権にたいして抵抗している弁護士、牧師、ジャーナリストなどの運動を公表した。スーダンについては、政府が何百人もの市民を逮捕・拘禁し、何百万人ものひとびとが餓死する状況を人為的につくったことに世界の注目をあつめさせた。最近では、ソマリア、ルワンダ、ブルンジなどの問題ととりくんでいる。アフリカのひとびとの人権は『ヒューマンライツ・ウオッチ/アフリカ』や『アフリカン・ライツ』などの人権NGOの活動の如何にかかっている。