【31号投稿】日本復興
藁科哲
「いつになく世の中が不穏なようだな。一体全体何が起こったのかい」
「おまえさんの目は相変わらず節穴だねえ。そりゃ電気も引いてなくて街と隔離されたかのような小屋に住んでいれば、外国にいるかのように何も知らなくてもいい生活だからね。」
「そりゃ自慢じゃないけど毎日毎日畑と家の往復で、たまに商店街にいって海産物を買うぐらいがご近所さんとの接点だからな。新聞をとっていないが、どこそこで交通事故があったとか選挙があったとかがわからないくても、毎日元気に暮らせるからいいのさ。」
「あんたねぇ街にあふれる失業者の群を見たことないのかい。都会じゃあ、若者からいい年したおじさんまで行き場も無くて懐もさびしくて、ひがな一日うらめしそうに行き交う人を眺めて暮らしているのよ。」
「へえ、そんなに仕事が無いならおれんちの畑でもてつだって欲しいな。ウメばあちゃんも腰を悪くして畑も荒れ放題だから、いくらでも人手はほしいな。食い物にはこまらないけど、どうかな」
「どうかって、いくら失業しているからっていっても都会を離れてここまで来る人はいるわけないじゃない。家族だって友達だっている自分の地盤から離れるには相当な決意がいるのよ。」
「あ、そうかそりゃそうだな。俺だって、急にどこか知らない街に引っ越せって言われたらいやだもんな。土地と家をただで呉れてやるといわれても、足踏みしてしまうな。」
「あら安いもの大好きのあんたも知らない土地はだめかい。」
「そう人を貧乏性のようにいうなって。サラリーマンが転職するように農家が転々とできたら、日本農業はここまでどんづまりにはならなかったよ。いやなら辞めればいいなんて逃げ道がないから、それなりの覚悟を持った若者しかやろうとは思わないのさ。」
「おや、たまには真面目なこと言うのね。じゃあさ、このまま跡継ぎもいないままで、あたしらがおっ死んじゃったらどうなるのよ。荒れ放題の畑ばっかりなんていやだね。」
「お役所連中に言わせればな、回答は簡単なんだ。法人組織に農業をさせれば問題解決と思っているらしいな。リスクが大きい家族経営は誰もやろうとしないよ。思えば戦争が終わったあとの農地解放で小作人はいなくなったが、21世紀になって小作人が復活するわけだ。おっと、年貢を納めなきゃいけないかもしれん。」
「年貢のようにわかりやすく搾取されていた昔はまだいいわよね。反発できるじゃない。今じゃあ何をうみだしたのかわからなくても、給料がもらえるからね。財務諸表を見て、何でこんなに自分の給料が安いのか疑問に思う人がいなくなったわ。これじゃあ永遠に生活は苦しいままよ。」
「そんな悲しませるようなこと言うなよ。おれの稼ぎじゃ家計は永遠に苦しいかもな。ちくと話を戻すと、株式会社が農業をしてバラ色の未来かってことさ。農地の値段が倍増すると思うんだけど、すると家族経営は苦しくなるだろ。離農したら株式会社が豊富な資金で買い占める、沢山土地を買ってその次はどうする、都市近郊のベッドタウンにしようとするんじゃないか。裏金をまわしてよろしく根回ししとけば10年後ぐらいには転売できるって法律を作るのさ。」
「ふうん、株式会社も考えものねえ。過疎地帯の魅力は土地が安いってことなのにね。ますます過疎の町に行こうって人はいなくなるわ。それこそ都市の人たちの別荘ばっかりになるんじゃないの。それともリゾートかしら。」
「閑散としたリゾートはもういらないよ。それこそ、余暇を楽しむ知恵を持っていない人たちのために、パチンコと競馬場のほうがいいさ。」
「わたしなら地場の特産品に興味があるなあ。たとえ有名でなくても、職人さんがいて工芸品や生活必需品を作っているような場所があって、自分でも体験できる機会があったらなおいいわね。主婦連の人たちからは特産物を生かした料理を教わって、お腹一杯になるのも楽しそう。」
「観光というより、日頃の生活の中に生かせられるようなものを過疎の中に見つけられればいいんだけど。商売としては割に合わないのはわかっているんだから、儲けるつもりじゃなくって伝統技術に価値を見いだせる人が多くなればいいぐらいの気持ちでやればいいと思うよ。」
「でもその為には国内旅行が安くなければね。海外旅行のほうが安くつくのはおかしいわよ。」
「そうね、でも国鉄の負債を抱えたJRは値下げできないし、業績好調だった航空業も人件費と飛行機代・整備代が高すぎて低空飛行をはじめているから期待できないね。」
「車で旅行しようにも、こんなに狭い日本なのに高速道路が高すぎるのは困りものよ。一人で旅行するには贅沢すぎるわ。お休みの日には渋滞がひどいし、イライラして精神的に持たないのよ。一体いつになったら高速道路が無料になるの。いくら税金をつぎこんできたのよ。」
「まあまあそうカリカリするなって。全ては今までの僕らのやってきたことの報いってこと。自業自得。まず、何でも信じやすい人の良さが生みだしたことだし、それとちょっと甘い汁を吸わされれば簡単になびく、その主義主張のなさ。」
「そうよね、雰囲気に左右されやすいし、ムラ八分が怖くて上には逆らえないしね。結局お金とひきかえにちやほやされて満足しちゃうのよ。そんな関係ばっかりになってきたわ」
「居心地の良さに安住しちゃうんだよなあ。つい一昔前までは社会全体が居心地悪そうだったけど、あの頃が個人レベルでは居心地よかったのかも。」
「どういうこと、あなたのいう居心地いいってどういうこと。」
「つまり帰るべき地域なり家庭なり会社なりがあって、半ば神話のようにみんな疑いもせずどっぷり浸ってたのさ、昔はね。今は、急に目覚まし時計がなって目をこすりながらボウっとしてる状態。でも半分寝てる人がほとんどだけど。」
「先を読んでいた船頭が海路を読み間違えたのね。船頭さんは何で間違えちゃったんだろ。」
「地図とにらめっこしながらチェックするべき船長がいなかったのさ。有能な船頭だから間違えることはないさと船員から乗客まで信じ込んでいたから。」
「船長は何してたのよ。」
「もちろん、船長って名のつく人はいたけど、学校で得た知識にとらわれてて、優秀な舟乗りじゃなかったんだ。それでも船長は勤まったのさ。驚くほどの高給取りだけどね。」
「それが巨大船タイタニックが沈んだ原因ってわけね。でも、はしけ船のような小船に乗っている人は影響受けていないんじゃない。」
「三国志の逸話で、孔明が敵の小船を鎖でつなぐように仕向けて、火攻めにして大勝を納めた話があったんだ。敵軍は、安定するからよかれと思って鎖で船をつないだんだけど、それがあだとなったのさ。僕らは水面下の鎖にもっと注意を向けなきゃいけなっかたんだけども、そうしろって賞賛されてきたからね。予想外の展開だよ。」
「ふうん、三国志も面白いわね。」
「そう、古典と歴史から学べることは数多いさ。流行を追っていてはすかすかになっちゃうよ。」
「じゃあ、まとめたところでそろそろおしまいね。」
「ああ、じゃあね。」